森内九段 4期ぶり6期目の名人返り咲き
勝負の余韻があるはずの森内だが、顔を紅潮させることも笑顔もなく、白い緊張した表情だけを見せていた。多くのプレッシャーをはねのけての復位の喜び、満足に浸るのは先のことになりそうだ。「あまりない(状況での)対局でした。(3連敗の将棋は)チャンスのない状態ばかりだったように思う。(最終局の勝ちは)自分でも驚いている」と話した。
最終局は再びの振り駒で先後を決める。森内が先手番になった。後手の羽生は「横歩取り」の戦型を選択した。第1、5と同じ。「羽生さんは後手番ならこれを、と決めていた気配でした」とは控室の感想だ。
開始早々から激しい盤上となり、森内が2枚の桂を跳ねあげて羽生陣に殺到する気配を見せたが、羽生が冷静に対処する新手を披露して、森内をけん制。激しくなりかけた風雨は落ち着き、森内が51手目を封じて1日目を終了した。
注目の封じ手は5三桂左。控室でも予想されたものだったが「もっとも激しくなる手を森内さんは選んだ」という観測がもっぱらだった。森内勢、羽生が耐え忍んで機をうかがう、という展開が続いた。終盤を迎えて羽生がじりじりとポイントを挙げ一時は「逆転しているのでは」(控室)との見解も出たが、森内は落ち着いていた。結局、攻めが切れなかった森内が、羽生を押さえ込み勝利をもぎとった。「終わってみれば森内さんの終始リードだったか」と控室。
伝統を誇る名人戦7番勝負で3連勝3連敗での決着局というのは初めての舞台だ。そして、3連敗後の1勝というのも史上例がなかった。3連勝した森内十八世、3連敗後に盛り返した羽生十九世の永世名人対決にふさわしい、力を尽くした激闘が幕を閉じた。
◆森内 俊之(もりうち?としゆき)1970年(昭45)10月10日生まれの40歳。横浜市出身。勝浦修門下。82年6級で奨励会入り。87年四段に。96年、第54期名人戦でタイトル初挑戦。02年、第60期名人戦で初戴冠。第65期名人戦勝利で通算5期保持で十八世永世名人となる。タイトル獲得は名人、王将を含め8期。妻と1女。1メートル76、79キロ、血液型O。